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大阪高等裁判所 平成10年(行ス)10号 決定 1998年10月21日

大阪市平野区加美北九丁目六番六号

抗告人(原審申立人)

北村忠男

右訴訟代理人弁護士

津留崎直美

大阪市平野区平野西二丁目二番二号

相手方(原審相手方)

東住吉税務署長 新田裕夫

右指定代理人

下村眞美

主文

一  本件即時抗告を棄却する。

二  抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一  当事者の当審での申立等

1  抗告の趣旨及び理由

抗告人は、「原決定を取り消す。相手方は別紙文書目録記載の文書(以下、本件文書という)を提出せよ。」との裁判を求め、その理由として、別紙即時抗告理由補充書、意見書(二)記載のとおり主張した。

2  相手方の反論

相手方は、抗告人の抗告理由に対し、別紙意見書(一)記載のとおり反論した。

二  本件文書提出命令の申立について

1  抗告人が提出命令を求めている文書(本件文書)は、相手方が異議決定書(甲一ないし三)の中で指摘したAないしEの同業者が税務署長に提出した青色申告決算書である。

2  抗告人は、本件文書提出命令申立の理由として、次のとおり主張している。

(一)  本件訴訟は推計課税の取消訴訟である。

(二)  抗告人は、相手方が主張する推計の基礎となった抗告人の所得率が妥当でないことを立証するために、本件文書を証拠として提出することが必要である。

(三)  相手方は、その主張において本件文書を引用しているから、本件文書は民訴法二二〇条一項所定の引用文書に該当し、相手方はその提出を拒むことができない。

三  当裁判所の判断

1  AないしEの青色申告決算書の引用について

(一)  抗告人の主張

抗告人は次のとおり主張する。

(1) 相手方は、本訴で異議段階の判断を正しいものと主張しているのであるから、当然その際の証拠も引用しているというべきである。

(2) したがって、相手方が異議決定書中で指摘したAないしEの青色申告決算書(本件文書)についても、民訴法二二〇条一項所定の引用文書に該当する。

(二)  検討

(1) 相手方が本訴で主張している同業者(具体的には東成A、旭A、豊能A、東大阪A、B)の抽出規準は、異議決定段階で主張していた同業者(具体的にはA、B、C、D、E)の抽出基準とは異なるものである。

(2) その結果、相手方の本訴での主張と異議段階での主張は、次のとおり全く異なっている。

イ 同業者の同一性

本訴で主張している同業者東大阪A、Bと、異議決定段階で主張していた同業者A、Eは同一人であるが、本訴の同業者東成A、旭A、豊能Aと異議段階での同業者B、C、Dとは同一人でない。

ロ 同業者の平均所得率

(イ) 異議段階では、平成四年分が一八・二〇パーセント、平成五年分が一六・五七パーセント、平成六年分が一五・五五パーセントと主張していた。

(ロ) 本訴では、平成四年分が二八・〇〇パーセント、平成五年分が二八・六四パーセント、平成六年分が二四・七五パーセントと主張している。

ハ 抗告人の事業所得金額

(イ) 異議段階では、平成四年分が一三一四万七一三〇円、平成五年分が九四七万八四七四円、平成六年分が七九七万〇一一一円と主張していた。

(ロ) 本訴では、平成四年分が一五六一万七一二三円、平成五年分が一一九二万五五七〇円、平成六年分が八一一万八八五九円と主張している。

(3) このように、相手方の異議段階での主張と本訴での主張は全く異なっている。相手方は、本訴で異議段階の判断を正しいものとは主張していない。抗告人の前示(一)の主張は、その前提を誤っており失当である。

2  A、Eの青色申告決算書の引用について

(一)  はじめに

相手方が本訴で主張している同業者の東大阪A、Bは、異議決定中の同業者A、Eと同一人である。そのため、相手方が本訴で異議決定中の同業者A、Eの青色申告決算書を引用しているのではないかが問題となるので、以下検討する。

(二)  民訴法二二〇条一号所定の引用文書について

民訴法二二〇条一号所定の当事者が訴訟において引用した文書とは、当事者が、口頭弁論や弁論準備手続、準備書面、書証の中で、立証又は主張の助け、裏付けもしくは明確化のために、その存在及び内容について、積極的に言及した文書をいう。

当事者が訴訟において所持する文書を自己の主張の裏付けとして積極的に引用した以上、その文書を提出させて相手方の批判にさらすのが公正であり、当事者が当該文書の秘密保持の利益を積極的に放棄したものといえるから、引用文書について提出義務を認めたものである。

したがって、当事者が自ら引用した文書を所持することにより提出義務を負うときは、証言拒否に関する民訴法一九一条、一九七条一項一号は類推適用されず、守秘義務があるものでも提出義務は免除されない。

(三)  相手方の本訴での主張、立証方法について

(1) 相手方は本訴で次のとおり主張している。

イ 抗告人の本件各年分の事業所得金額は、同業者の平均算出所得率を用いて推計する方法により算定した。

ロ 右平均算出所得率は、次のような方法により求めた。

(イ) 大阪国税局長が発した一般通達に基づいて、大阪府下の各税務署長が異議段階とは別個の基準で同業者を抽出した。

(ロ) 各税務署長は、その同業者の青色申告決算書に基づき、売上金額、一般経費などを調査し、その結果を記載した同業者調査票を作成した。

(ハ) 右同業者調査票を集計した結果に基づき、前示平均算出所得率を求めた。

(2) 本訴で、相手方が、同業者五名(うち二名が異議決定のA、E)の青色申告決算書を直接書証として提出する方法ではなく、各税務署長作成の同業者調査票(乙三の1ないし31)を書証として提出する方法により立証を試みているのは、次の理由によるものと推測される。

イ 同業者五名の青色申告決算書は、個人の秘密に関する所得金額、資産・負債の内容等が記載された文書であるから、相手方である税務署長は、職務上知り得た右事項について守秘義務を負っている(国家公務員法一〇〇条一項、所得税法二四三条)。

ロ したがって、相手方が同業者五名の青色申告決算書を書証として本訴に提出すれば、相手方に課せられている守秘義務に違反する。

ハ そこで、相手方は、守秘義務に違反することがないように、前示同業者調査票を書証として提出する方法により立証を試みている。

(四)  検討

(1) 同業者調査票は、同業者五名(うち二名が異議決定書のA、E)の青色申告決算書に基づいて、二次的に作成されたものである。当然のことながら、基となった第一次的な証拠である同業者五名の青色申告決算書の方が、二次的に作成された右同業者調査票よりも証明力が高い。

(2) しかし、相手方は、同業者五名の青色申告決算書を本訴で書証として提出すれば、守秘義務に違反することから、やむを得ず、それよりも証明力の低い同業者調査票を書証として提出することで甘受しているものである。

(3) もっとも、相手方も、その主張において、同業者調査票の作成方法を説明するために、同業者五名の青色申告決算書の存在と内容に言及してはいる。しかし、相手方は、同業者の平均算出所得率の立証のため、あるいはその主張の裏付けや明確化のために、同業者五名の青色申告決算書の存在等について積極的に言及したものとは認められない。

何故ならば、相手方は、守秘義務違反を避けるために、やむを得ず、証明力の低い同業者調査票を書証として提出することで甘受している以上、相手方が、その主張、立証の裏付け等のため、積極的に同業者五名の青色申告決算書の存在等について言及したものとは認められないからである。

(4) したがって、相手方は、本訴において、同業者調査票を引用したのであって、異議決定書の同業者A、Eの青色申告決算書を引用したものではない。右青色申告決算書についても、民訴法二二〇条一号所定の引用文書とは認められない。

3  結論

よって、本件文書提出命令を却下した原決定は結論において相当であり、本件即時抗告は理由がないので棄却し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小田耕治 裁判官 紙浦健二 裁判官 播磨俊和)

(別紙)

文書目録

被告が平成八年七月九日付けで原告に対してした原告の平成四年分ないし平成六年分の所得税についての各異議決定の異議決定書(東住吉個第一三五九ないし第一三六一号。甲第一ないし第三号証)の異議決定の理由3の(2)記載のAないしEの同業者が平成四年分ないし平成六年分の各所得税について管轄の税務署長に対して提出した青色申告決算書

平成一〇年(行カ)第五号

文書提出命令申立却下に対しての即時抗告事件

即時抗告理由補充書

抗告人(申立人) 北村忠男

相手方 東住吉税務署長

一九九八年九月一日

右抗告人代理人

弁護士 津留崎直美

大阪高等裁判所

御中

一 原決定は、本件文書が民訴法二二〇条一号の引用文書にあたらないとし、その理由として被告が引用しているのは、同業者調査票であり、青色申告決算書ではないとする。しかし、被告の提出した同業者調査票の正確さの裏付けになるのが青色申告決算書であるのは明らかであり、それを引用していないというのであれば、その正確さは担保できないのである。それは結局のところ、被告の身内が書いたことをそのまま信じろということになり、それが立証として不十分なことは明らかである。

そもそも提出命令の趣旨は、相手方の所持する自己に有利(少なくともその可能性があるもの)な証拠をを提出させることにあるのであって、相手方(もしくはそれに準ずるもの)が結論のみを書いたような物(本件での同業者調査票)しか認めないのであればほとんどその意味はないことになる。むしろ、その裏付けとしているものを提出させ、恣意的な引用はないか、本当に裏付けがあるのかをチェックさせることに提出命令の、特に一号書面(引用文書)の本来の意味がある。この点からいっても本件文書は民訴法二二〇条一号の引用文書に該当することは明らかである。

二 また、原決定は、本件文書が「公務員又は公務員であった者がその職務に関し保管し、又は所持する文書」であるので民訴法二二〇条四号の一般的提出義務の対象でないとする。しかし、本件文書は前述のように一号書面に該当するのでこの指摘は意味ないものである。なお、念の為にいえば、この「公務員又は公務員であった者がその職務に関し保管し、又は所持する文書」という除外事由は四号書面の場合についてのものであり、一号書面(引用文書)に該当する場合には意味のないことであり、類推できるものではない。

また、原決定は本件文書が個人の秘密に属する所得金額などが記載されたものであり、被告には職務上知りえた事項について守秘義務があるので提出義務がないとするが、なぜ提出義務がないのか、その根拠は不明である。そもそもそのような守秘義務の点を踏まえて民訴法二二〇条四号の一般的提出義務の除外事由として「公務員又は公務員であった者がその職務に関し保管し、又は所持する文書」の規定があるのであり、それ以上のものではない。そして、その除外事由はすでに述べたように一号書面(引用文書)の場合には意味がないのである。

三 被告は守秘義務で青色申告決算書の提出を拒み、それを自分しが見ることのできないままにして、その結果を自分でまとめたとするもの(同業者調査票)のみを出し、それを信用するように求めるのである。このことは全くの不公正なことと言わなければならない。もし、裏付けたる青色決算書を提出しないのであればそもそもその結果をまとめたとする同業者調査票も証拠として提出すべきではない。

平成一〇年(行ス)第一〇号

原告 北村忠男

被告 東住吉税務署長

意見書(一)

平成一〇年九月二九日

被告指定代理人

下村眞美

長田義博

木本正行

神宮由佳

大阪高等裁判所第一〇民事部 御中

原告は、平成一〇年八月一二日付け文書提出命令の申立に対する決定(以下「本件決定」という。)について、平成一〇年八月一七日付けで即時抗告を申し立てた。そして、原告は、同申立書中の抗告の理由二及び一九九八年(平成一〇年)九月一日付け即時抗告理由補充書において異議決定書理由欄記載の青色申告決算書(以下「本件文書」という。)は、民事訴訟法二二〇条一号の引用文書に該当するもので、本件文書が同条四号にいう「公務員又は公務員であった者がその職務に関し保管し又は所持する文書」に該当するかどうかにかかわらず、文書提出命令を認めるべきであるとする。

被告の意見は、平成一〇年六月二六日付け意見書で述べたほか、さらに、以下のとおりであって、本件即時抗告申立ては、理由がないから、速やかに棄却されるべきである。

一 提出義務の不存在(民事訴訟法二二〇条一号非該当)

被告は、本件訴訟(大阪地方裁判所平成九年(行ウ)第四四ないし第四六号)において、原告と業種、業態、事業場所及び事業規模等において類似性を有した同業者の算出所得率を基礎数値としたいわゆる推計課税の主張及び立証を行っている。すなわち、被告は、被告の上級官庁である大阪国税局長が、作成基準を定めて被告及び各税務署長に対し発遣した通達に基づいて所轄管内において青色申告をしている同業者の青色申告決算書等を調査して同業者調査表を作成し、これを訴訟資料として右主張及び立証をなしているものである。したがって、右同業者調査表は、その作成経緯からも明らかなとおり、青色申告決算書を参照し、その内容の一部に基づいて作成されたものではあるが、それ自体文書として独立した意味内容を有し、形式上も青色申告決算書とは別個独立した文書であって、右各同業者が作成した本件文書とは異なる文書であることは明らかである(大阪高裁昭和六三年一月二二日決定・判例タイムズ六七五号二〇五ページ)。

ところで、民事訴訟法二二〇条一号は、「当事者が訴訟において引用した文書を自ら所持するとき」に文書提出義務を課しているところ「訴訟において引用したる文書」(引用文書)とは、当事者の一方が訴訟においてその主張を明確にするために文書の存在について、具体的、自発的に言及し、かつ、その存在及び内容を積極的に引用した場合における文書を指すものであって、文書所持者が特定の文書を証拠として引用する意思を明らかにした場合に限られるものと解すべきである。本件において、被告は推計の合理性を主張するため被告及び各税務署長が作成し大阪国税局長あてに提出した同業者調査表を引用しかつ、これを証拠(乙第三号証の一ないし三一)として提出して推計の合理性を立証しようとしているのであり、本件文書を引用しているものではないから、そもそも、民事訴訟法二二〇条一号に規定するいわゆる引用文書に当たらない。

また、被告は、後記二で述べるとおり守秘義務を負っていることからも、本件文書を引用する意思はないのである。

二 職務上の秘密(守秘義務)による提出義務の不存在

民事訴訟法一九一条(旧民事訴訟法二七二条)は、公務員を証人として職務上の秘密につき尋問するには監督官庁の承認が必要であると規定しているが、これは、右秘密を公表することによって国家利益又は公共の福祉に重大な損失、重大な不利益を及ぼすことになるところこれを公表することの当否の判断は、その利害得失を最もよく知ってする証人義務と同一の性格を有するものと解されるから、引用文書の提出については同法一九一条(旧法二七二条)、一九七条一項一号(旧法二八一条一項一号)が類推適用され、文書所持者に守秘義務があるときは、当該文書の提出義務を免れ得るものと解すべきである(東京高裁昭和五二年七月一日決定・判例タイムズ三六〇号一五二ページ、東京高裁昭和六〇年二月二一日決定・判例時報一一四九号一一九ページ、前掲大阪高裁昭和六三年一月二二日決定、平成六年七月一九日決定・税務訴訟資料二〇五号一六五ページ)。

しかるところ、本件文書には、納税者(同業者)個人の秘密に属する事項(所得金額、資産負債の内容等)の記載が存することは明白であり、右事項は、被告が国家公務員として職務上知り得た秘密にほかならないものであって、守秘義務を負うものである。(国家公務員法一〇〇条、所得税法二四三条)。したがって、被告は、民事訴訟法一九一条、一九七条一項一号の類推適用により、本件文書の提出を拒むことができる。仮に、被告ないし税務職員が特定の納税者の青色申告決算書を公表するなどという事態が生ずれば、申告納税制度あるいは税務行政の執行に重大な支障を及ぼすことは必至であるといわなければならない。

平成一〇年(行ス)第一〇号

意見書(二)

抗告人(申立人) 北村忠男

相手方 東住吉税務署長

一九九八年一〇月八日

右抗告人代理人

弁護士 津留崎直美

大阪高等裁判所第一〇民事部 御中

被告(相手方)の平成一〇年九月二九日付意見書に対し、次のとおり反論する。

一 本件決定の誤まりはすでに抗告人の本年九月一日付即時抗告理由補充書で述べたとおりである。本件での基本的な争点は<1>本件文書が民訴法二二〇条一号の引用文書に該当するか、<2>仮に該当した場合に除外事由はあるかであり、今回の意見書では相手方が指摘した各判例を中心に新民訴法の趣旨解釈から見ても、本件提出命令を命ずべきことを指摘する。

二 まず引用文書に該当するかについて、相手方は本件と同様の青色申告決算書に関して、大阪高裁昭和六三年一月二二日決定を引用する。しかし、この決定も引用文書の意義を広く解して、立証のために引用したものに限らないとの考えにたっており、同様の考えは多数説、多くの判例がとるところである。(判例タイムズ六七五号二〇五ページ)実際にも同決定は「広義においては本件文書も民訴法三一二条一号所定の被控訴人引用文書であると思われないでもない」としており、そのうえで「単にBの事業所得関係のみでなく他の所得関係のすべてにわたる記載があり、かつその取引関係についても具体的に開示されているほか、世帯の構成等一身上の事項の記載も存する」といったように、必要以上の記載があることをもって該当しないとしたのである。このような必要以上の記載をどう考えるかが問題となるが、この点については前掲二〇七ページで参考判例とされている大阪地決昭六一・五・二八(判時一二〇九号一七ページ)とその抗告審である大阪高決昭六一・九・一〇(判時一二二二号三五ページ)の判断が参考になる。この大阪地決では青色申告決算書について引用文書に該当すると判断し、守秘義務との関係で納税者の特定につながる固有名詞をすべて削除した写しを提出するように命じた。その抗告審である大阪高決昭六一・九・一〇では一審決定が現存しない文書(削除した文書)を作成して提出を命じたものであり、文書提出命令制度に含まれないという形式的な判断で取り消した。しかし、その後、新民訴法二二三条一項では、文書の一部についての提出命令を行うことができると規定されるようになったので、その点問題なくなったものである。

三 次に守秘義務との関係であるが、そもそも証言の場合と文書提出の場合とは質的に違うものである。証言の場合については、その場その場で証人が個人として応対しなければならないのに、文書提出にあたっては、担当部局として検討するだけの余裕がある。証言の場合には用心のためにも証言拒否する範囲は大きいことになろうが、提出命令への対応は部分的に選別する余地がある。先に指摘した新民訴法二二三条一項での文書の一部についての提出の規定はそのために多いに役立つのであって、提出命令申請に対しての一部認容として認められるべきである。また、新民訴法は、その改正の趣旨から見て、従来認められた提出命令の範囲を広げるものであり、その二二〇条四号での除外事由は当然一ないし三号に当てはめるものではない。四号ではロとして証言拒否ができる場合には提出を認めないでもよいとなっているが、この四号は従来提出命令が認められる以外のものであり、そのような場合にだけこの守秘義務による証言拒否の規定が援用されていることは注目すべきである。すなわち一ないし三号においては、守秘義務による証言拒否の場合を安易に類推してはならないことを示している。仮に類推するとしても、それは限定的に行うべきであって、すでに述べたような一部提出の方法をとるべきである。

四 以上のように、相手方が指摘した判例においても、それ自体提出命令の範囲を形式的な理由によって不当に狭めたという問題点があったが、新民訴法によってその形式的な障害も解消されたのであるから、本件申立は認めるべきである。

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